相続放棄の期限は3ヶ月——起算点・手続き・「やってはいけないこと」まで一気に解説
公開 2026-07-13 / 最終更新 2026-07-21
相続放棄の期限は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内です。この期間内に、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ「相続放棄の申述」をします。相続は預貯金や不動産だけでなく、借金などのマイナスの財産も引き継ぐのが原則で、放棄すればその両方を手放すことになります。期限を過ぎると原則として放棄できなくなるため、借金の有無が分からないときほど早く動くことが大切です。この記事で、期限の数え方から手続きの流れ、やってはいけないことまで整理します。
相続放棄とは——借金も「相続財産」
相続放棄とは、家庭裁判所への申述によって、はじめから相続人でなかったことにする手続きです。
相続が始まると、相続人には3つの選択肢があります。
- 単純承認:プラスもマイナスもすべて相続する(何もしなければ自動的にこれになります)
- 限定承認:プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ(相続人全員で行う必要があります)
- 相続放棄:プラスもマイナスも一切相続しない
ここで大事なのは、借金・ローン・滞納家賃・保証債務なども「相続財産」だということです。亡くなった方に借金があれば、何もしないままだと相続人が返済義務を引き継ぎます。「財産より借金のほうが多そうだ」「疎遠だった親族の相続に関わりたくない」というときの出口が、相続放棄です。
なお、相続放棄は家庭裁判所での手続きが必須です。相続人同士の話し合いで「自分は何もいらない」と伝えただけでは、法律上の相続放棄にはなりません。その場合、遺産は受け取らなくても借金の返済義務は残ります。この違いはよくつまずくポイントなので、先に押さえておいてください。
期限は「知った時から」3ヶ月——熟慮期間の起算点
相続放棄ができる期間(熟慮期間)は、民法で「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」と定められています(民法915条1項)。
ポイントは、起算点が「亡くなった日」ではなく「知った時」だということです。
- 同居の家族なら、通常は亡くなった日=知った日となり、そこから3ヶ月です。
- 疎遠な親族で、死亡を後から知らされた場合は、知らされた日から3ヶ月を数えます。
- 先順位の相続人が放棄したことで自分に相続権が回ってきた場合(たとえば子ども全員が放棄して兄弟姉妹に回ってきたケース)は、自分が相続人になったことを知った時から3ヶ月です。
つまり「亡くなってから3ヶ月以上経っているから、もう無理」とは限りません。自分の起算点がいつなのかを、まず落ち着いて確認しましょう。
3ヶ月で判断できないときは「伸長の申立て」ができる
「財産の全容が分からず、放棄すべきか3ヶ月では決められない」——そんなときは、家庭裁判所に相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てをすることで、熟慮期間を延ばしてもらえる場合があります。
注意点は、伸長の申立て自体も3ヶ月の期限内に行う必要があることです。費用は相続人1人につき収入印紙800円分と連絡用の郵便切手で、申立先は相続放棄と同じく被相続人の最後の住所地の家庭裁判所です。財産調査に時間がかかりそうだと感じたら、期限ぎりぎりまで悩まず、早めにこの申立てを検討してください。
相続放棄の手続きを自分でやる流れ
相続放棄の申述は、書類がそろえば自分で行うことも十分可能です。流れは大きく4ステップです。
①財産を調査する
まず、放棄すべきかどうかの判断材料を集めます。預貯金・不動産・有価証券などのプラスの財産と、借金・ローン・保証債務などのマイナスの財産の両方です。郵便物(督促状・請求書)、通帳、信用情報機関(CIC・JICC・全国銀行個人信用情報センター)への情報開示請求などが手がかりになります。
②必要書類を集める
裁判所の案内によると、どの立場の人でも共通して必要になるのは、おおむね次の書類です。
- 相続放棄の申述書(裁判所のサイトから様式をダウンロードできます)
- 被相続人の住民票除票(または戸籍の附票)
- 申述人(放棄する人)の戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
申述人の立場(配偶者・子・親・兄弟姉妹など)によって、このほかに戸籍が追加で必要になります。相続順位が後ろになるほど、必要な戸籍は増える傾向があります。
③家庭裁判所へ申述する
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、申述書と添付書類を提出します。窓口へ持参するほか、郵送でも提出できます。自分の住所地ではなく「亡くなった方の住所地」の裁判所である点に注意してください。遠方でも郵送で完結できます。
④照会書に回答し、受理される
申述後、家庭裁判所から照会書(質問書)が届くことが一般的です。「自分の意思で放棄するか」「相続財産を処分していないか」などの質問に回答して返送します。問題がなければ申述が受理され、相続放棄申述受理通知書が届きます。債権者に放棄を証明する必要があるときは、別途相続放棄申述受理証明書の交付を請求できます。
費用の目安
自分で手続きする場合の実費は、それほど大きくありません。
- 収入印紙:申述人1人につき800円分
- 連絡用の郵便切手:数百円〜千円程度(金額は裁判所ごとに異なります)
- 戸籍謄本などの取得費用:1通450〜750円程度×必要通数
合計で、おおよそ数千円が目安です。弁護士や司法書士に依頼する場合は、これに報酬(事務所により異なりますが、1人あたりおよそ数万円程度が多いようです)が加わります。期限が迫っている、書類集めが複雑、債権者対応が不安——そうした事情があるときは、費用をかけてでも専門家に任せる価値があります。
やってはいけないこと——「法定単純承認」で放棄できなくなる
相続放棄を考えているなら、申述の前後を通じて、相続財産に手を付けないことが鉄則です。
民法921条は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときなどに、単純承認をしたものとみなすと定めています(法定単純承認)。これに当たると、そのあと相続放棄をしようとしても認められなくなるおそれがあります。具体的に注意したい行動は次のとおりです。
- 預貯金の引き出し・解約をして自分のために使う:亡くなった方の口座からお金を引き出して生活費などに充てる行為は典型例です。なお、口座は金融機関が死亡を把握すると凍結されます。凍結の仕組みと解除の流れは口座凍結はいつ・どう解除する?で解説しています。
- 遺品の処分・売却:家財を売る、車を名義変更して使う、といった行為は「処分」と評価されるおそれがあります。経済的価値がほとんどない物の形見分けは問題にならないとされることもありますが、線引きはケースバイケースです。放棄を検討中なら、遺品整理は放棄の判断が済むまで待つのが安全です。タイミングの考え方は遺品整理はいつから始めるべきかにまとめています。
- 債務の弁済や請求:被相続人の借金を相続財産から返す、貸していたお金を取り立てる、といった行為も処分に当たりうるとされます。
- 財産の隠匿・消費:放棄した後でも、相続財産を隠したり使い込んだりすると、単純承認とみなされます(民法921条3号)。
一方で、葬儀費用を相当な範囲で支出することや、通夜・葬儀を執り行うこと自体は、直ちに単純承認には当たらないとした裁判例があるとされます。ただし「相当な範囲」の判断は個別性が強いため、迷う支出があるときは実行前に弁護士・司法書士へ確認するのが確実です。
また、2023年4月の民法改正により、放棄した人がその時点で相続財産(建物など)を現に占有している場合は、次の相続人などに引き渡すまで保存義務を負うことになりました(改正民法940条)。「放棄したら実家を放置してよい」とは限らない点も、頭の片隅に置いておいてください。
3ヶ月を過ぎてしまった場合——あきらめる前に専門家へ
熟慮期間の3ヶ月を過ぎると、原則として単純承認したものとみなされ、相続放棄はできなくなります。
ただし、例外が認められたケースもあります。判例上、相続財産が全く存在しないと信じ、そう信じたことに相当な理由がある場合には、熟慮期間の起算点を「相続財産の存在を認識した時(またはその認識が可能になった時)」から数える余地があるとされています。典型的なのは、死亡から3ヶ月以上経ってから、突然、債権者からの督促状で借金の存在を知ったようなケースです。
とはいえ、これはあくまで例外で、認められるかどうかは事情次第です。「3ヶ月過ぎたからもう無理」と自分で決めつけて放置するのも、「例外があるから大丈夫」と楽観するのも、どちらも危険です。期限経過後の申述は、事情説明書(上申書)の書き方ひとつで結果が変わりうる領域なので、この場合は自分でやろうとせず、できるだけ早く弁護士・司法書士に相談することを強くおすすめします。督促状が届いてから時間が経つほど、不利になりやすいと考えてください。
放棄しても受け取れるものがある
「放棄したら1円も受け取れない」と思われがちですが、相続財産ではなく、受け取る人固有の権利とされるものは、放棄しても受け取れるのが一般的な取り扱いです。
- 生命保険金(死亡保険金):受取人が特定の人に指定されている場合、保険金は受取人固有の権利であり、相続財産には含まれないとされています。相続放棄をしても受け取れます(ただし受取人が「被相続人本人」になっている場合などは相続財産に含まれうるため、保険証券の受取人欄を確認してください)。
- 未支給年金:亡くなった方が受け取るはずだった年金の未払い分は、生計を同じくしていた遺族が自己の名で請求できる、遺族固有の権利とされています。詳しい請求手続きは未支給年金の請求方法をご覧ください。
- 遺族年金:遺族自身の権利として支給されるもので、相続財産ではありません。
このほか、死亡退職金や葬祭費・埋葬料なども、規程や制度上、受取人固有の権利と整理されるものがあります。なお、生命保険金は相続放棄をしても相続税の課税対象(みなし相続財産)にはなり、放棄した人は非課税枠を使えないなど、税務上は別の考慮が必要です。金額が大きい場合は税理士にも確認しましょう。
まとめ
- 相続放棄の期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」。亡くなった日からとは限らない
- 申述先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所。郵送可・実費は数千円程度で、自分でも手続きできる
- 3ヶ月で判断できないときは、期限内に伸長の申立てを
- 遺品の処分・預金の引き出しなどは法定単純承認となり、放棄できなくなるおそれ。判断が済むまで財産に手を付けない
- 3ヶ月を過ぎても例外が認められたケースはある。あきらめず、早めに弁護士・司法書士へ
- 生命保険金・未支給年金・遺族年金など、受取人固有の権利は放棄しても受け取れるのが一般的
相続放棄は、死亡直後に押し寄せる手続きのなかでも特に期限がシビアなものの一つです。死亡届・年金・保険なども含めた全体の流れは死後の手続き全体ガイドで確認できます。
なお、相続放棄をしても実家(空き家)の管理責任が残る場合があります。放棄と実家の関係は相続放棄しても、実家(空き家)はどうなる?で詳しく解説しています。
死後の手続き全体は、無料ツールで整理できます
相続放棄の3ヶ月は、数十種類ある死後の手続きのなかの一つの期限にすぎません。死亡届は7日以内、年金の受給停止は10〜14日以内、相続税の申告は10ヶ月以内——期限の違う手続きが同時に押し寄せます。
モシュットは、いくつかの質問に答えるだけで、あなたに必要な手続きを期限順のチェックリストにする無料ツールです。相続放棄の期限も、他の手続きとあわせて一目で確認できます。
さらに詳しい実務ガイドは、note有料記事にまとめています。
出典・参考
※本記事は一般的な制度・手続きの説明であり、個別の法律相談ではありません。相続放棄が認められるかどうか、法定単純承認に当たるかどうかは個別の事情により判断が分かれます。期限・費用・必要書類は執筆時点(2026年)の一般的な情報です。実際の手続きの際は、必ず家庭裁判所の公式情報を確認のうえ、必要に応じて弁護士・司法書士にご相談ください。
相続の手続きに時間が取れないときは
以下には広告(アフィリエイトプログラム)を含みます。掲載内容は一般的な情報提供であり、ご契約・お申し込みの判断は各社の公式情報をご確認のうえ、ご自身の責任で行ってください。
相続ナビは、必要書類の収集から各種手続きまでをオンライン中心で代行するサービスです(有料・全国対応)。ご自身で進める場合は、この記事の手順をそのままお使いください。
相続ナビの詳細を見る