銀行口座は死亡でいつ凍結される?——解除の手順と、急ぎのお金を引き出す「仮払い制度」
公開 2026-07-13
亡くなった方の銀行口座は、銀行がその死亡を把握した時点で凍結されます。役所に死亡届を出したから自動で止まる、というものではありません。凍結された口座を動かす(名義変更・払戻し)には、遺言や遺産分割協議書などをそろえた相続手続きが必要です。ただし、葬儀費用や当面の生活費など急いで必要なお金については、遺産分割を待たずに一定額まで引き出せる「預貯金の仮払い制度」があります。この記事では、なぜ・いつ凍結されるのか、解除の手順と必要書類、そして仮払い制度の使い方までを整理します。
なぜ口座は凍結されるのか
そもそも、なぜ亡くなると口座が止められてしまうのでしょうか。
理由は、相続財産の保全です。亡くなった方(被相続人)の預金は、その瞬間から相続人全員で共有する相続財産になります。まだ「誰がいくら受け取るか」が決まっていない段階で、一部の相続人が勝手に引き出してしまうと、後の遺産分割でトラブルになりかねません。
そこで銀行は、名義人の死亡を知ると、いったん口座を凍結し、入出金・引落しをすべて止めます。これは特定の誰かを困らせるためではなく、相続人全員の権利を等しく守り、あとで「勝手に使われた」という争いが起きないようにするための措置です。凍結されると、原則としてキャッシュカードでの引き出しも、ATMも、公共料金の口座振替も止まります。
口座はいつ凍結される?——「死亡届」では止まらない
ここが多くの方が誤解しやすいポイントです。
市区町村役場に死亡届を出しても、その情報が自動的に銀行へ伝わって口座が凍結される、という仕組みはありません。役所と銀行は情報を共有していないため、死亡届の提出だけで口座が止まることは、基本的にはないのです。
では、いつ凍結されるのか。答えは、銀行がその死亡を「知った」時点です。銀行が死亡を把握するきっかけは、たとえば次のようなものです。
- 遺族が銀行に死亡を連絡したとき(相続手続きの相談や届け出をした場合など)
- 新聞の訃報・お悔やみ欄などで銀行が把握したとき
- 相続に関する問い合わせや取引の中で、行員が死亡を知ったとき
つまり、遺族が銀行に連絡しなければしばらく凍結されないケースもあります。一方で、残高照会や取引のために銀行へ相談した結果、その場で凍結されることもあります。「連絡すると止まってしまうから、後回しにしよう」と考える方もいますが、後述するとおり凍結前の安易な引き出しには相続上のリスクがあるため、順番と方法には注意が必要です。
凍結されると、どんなことに困るのか
口座が凍結されると、その口座を経由していたお金の流れがすべて止まります。具体的には次のような影響が出ます。
- 公共料金(電気・ガス・水道)や通信費の口座振替が止まる——引落し不能になり、故人名義の契約のまま放置すると滞納扱いになることがあります。契約者変更や引落し口座の切り替えが必要です。
- 家賃・地代の引落しが止まる——賃貸契約の支払いが滞らないよう、早めに支払方法を見直す必要があります。
- 年金の受取口座が使えなくなる——年金の受給停止手続きとあわせて対応が必要です。
- 当面の生活費や葬儀費用を引き出せない——同居の配偶者などが故人の口座で生活していた場合、生活費に困ることがあります。
特に困りやすいのが、葬儀費用や当面の生活費です。相続手続きが終わるまで数週間〜数か月かかることもあり、その間まったく引き出せないと生活が立ち行かなくなりかねません。この問題に対応するのが、後半で説明する仮払い制度です。
凍結の解除=名義変更・払戻しの手順と必要書類
凍結された口座を動かすには、銀行に相続手続き(名義変更または払戻し)を申し出ます。おおまかな流れは次のとおりです。
- 銀行に死亡を連絡し、相続手続きを申し出る——取引店や相続専用の窓口・コールセンターに連絡します。
- 銀行から相続手続きの案内・所定の届出書(相続届)を受け取る——必要書類の一覧も案内されます。
- 必要書類をそろえて提出する
- 銀行の確認後、預金が払い戻される/名義変更される——申請から入金まで、一般にはおおむね2〜3週間程度が目安とされますが、書類の不備や銀行の混雑状況によって前後します。
必要書類は、遺言書があるか、遺産分割協議書があるかなどケースによって変わります。一般的には次のような書類が求められます(各行・各ケースで異なります)。
- 銀行所定の相続届(相続手続依頼書)——相続人全員の署名・実印での押印を求められることが多い
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(一式)と、相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 通帳・キャッシュカード・証書など
- 遺言書がある場合——遺言書(自筆証書遺言は家庭裁判所の検認済みのもの、または法務局保管制度を利用したもの)、遺言執行者がいればその資格を示す書類
- 遺産分割協議書がある場合——相続人全員が署名・実印で押印した遺産分割協議書
ここで役立つのが法定相続情報一覧図です。これは戸籍の束の代わりになる公的な証明で、法務局が無料で交付してくれます。銀行・証券・年金など提出先が複数あるとき、戸籍一式を何度も出し直す手間を大きく減らせます。作り方は法定相続情報一覧図の書き方で詳しく解説しています。相続手続きを始める前に用意しておくと、その後がぐっと楽になります。
急ぎの資金は「預貯金の仮払い制度」で引き出せる
「相続手続きが終わるまでお金が引き出せないと、葬儀費用や生活費が払えない」——この問題に対応するために、2018年の相続法(民法)改正で新設され、2019年7月1日から始まったのが、遺産分割前の相続預金の払戻し制度(仮払い制度)です(民法909条の2)。
これは、遺産分割が終わる前でも、各相続人が単独で、一定額まで故人の預金を引き出せるという制度です。他の相続人全員の同意がなくても請求できるのが大きな特徴です。
引き出せる金額の上限
単独で引き出せる金額には上限があり、一般的に次のように説明されます。
- 相続開始時の預金残高 × 1/3 × その相続人の法定相続分
- ただし、同一の金融機関からは150万円まで(法務省令で定められた上限)
たとえば、ある銀行にあった残高が1口座600万円、引き出したい相続人の法定相続分が2分の1のケースでは、「600万円 × 1/3 × 1/2 = 100万円」まで、その相続人が単独で引き出せる、という計算になります。150万円という上限は、法務省の説明では「およそ1年分の生計費または平均的な葬式費用を賄える金額」を目安に設定されたものとされています。
この金額や計算方法は制度の一般的な内容であり、実際の可否・金額・扱いは金融機関や個別の事情によって異なります。必ず各銀行および専門家にご確認ください。
必要書類の目安
仮払いを請求する際は、本人確認書類に加え、おおむね次のような書類が必要とされます(各行で異なります)。
- 被相続人が亡くなったことがわかる戸籍(除籍)謄本
- 相続人の範囲・法定相続分がわかる戸籍謄本(一式)——ここでも法定相続情報一覧図が使えます
- 請求する相続人の印鑑証明書
注意点——引き出した分は「取得した」扱いに
仮払い制度で引き出したお金は、あとの遺産分割で、その相続人がすでに受け取った分として扱われます(民法909条の2後段)。つまり「別枠でもらえる」お金ではなく、最終的な取り分の前渡しにあたります。この点を他の相続人と共有しておかないと、後の分割協議で誤解が生じることがあります。
よくある誤解・注意点
凍結前に慌てて引き出すのは危険
「凍結される前に、ATMで下ろしておけばいい」と考える方がいますが、これには相続上のリスクがあります。
第一に、単純承認とみなされるおそれです。相続財産である預金を相続人が自分のために使ってしまうと、「相続する意思を示した(法定単純承認)」と評価され、あとで相続放棄ができなくなる可能性があります。故人に借金がある場合、これは深刻な問題になり得ます。
第二に、他の相続人とのトラブルです。無断で引き出したお金は「使い込み」を疑われやすく、後の遺産分割協議で「あのお金はどこへ行った」と紛糾する原因になります。引き出した記録は通帳に残るため、隠すこともできません。
急ぎのお金が必要なときは、こうしたリスクのある「凍結前の引き出し」ではなく、正規の仮払い制度を使うのが安全です。
「連絡しなければ凍結されない」は解決策ではない
前述のとおり、銀行に連絡しなければしばらく凍結されないことはあります。しかし、それは単に手続きを先送りしているだけで、公共料金の引落しなどはいずれ止める必要があります。また、放置している間に他の相続人が動くこともあります。正しい順番で、正規の手続きに乗せることが結局は最短です。
葬儀費用の引き出しにも記録を残す
仮払い制度などで引き出したお金を葬儀費用に充てる場合は、領収書や明細を必ず保管しておきましょう。使途が明確であれば、後の遺産分割でも説明がつきやすく、相続税の計算(葬式費用の控除)でも役立ちます。
まとめ
亡くなった方の銀行口座の凍結について、要点を整理します。
- いつ凍結?——役所への死亡届では止まらない。銀行が死亡を知った時点で凍結される。
- なぜ?——相続人全員の権利を守る「相続財産の保全」のため。
- 困ること——公共料金・家賃の引落し停止、当面の生活費・葬儀費用が引き出せない。
- 解除——遺言や遺産分割協議書、戸籍などをそろえて銀行に相続手続き(名義変更・払戻し)を申し出る。法定相続情報一覧図があると楽。
- 急ぎのお金——預貯金の仮払い制度で、一定額(一般に「残高×1/3×法定相続分」かつ1金融機関150万円まで)を単独で引き出せる。金額・扱いは金融機関や事案で異なるため要確認。
- やってはいけない——凍結前に慌てて引き出すと、単純承認や使い込み疑いのリスク。正規の手続きが結局いちばん安全。
銀行手続きは、亡くなったあとに発生する多くの相続手続きの一つです。全体像は死後の手続き 全体ガイドで確認できます。金額や必要書類は各行・各ケースで異なるため、実際の手続きの際は必ず取引先の金融機関と専門家にご確認ください。
死後の手続き全体は、無料ツールで整理できます
銀行口座の相続は、亡くなったあとに発生する数十種類の手続きのうちの一つです。死亡届は7日以内、年金の受給停止は10〜14日以内、相続放棄は3か月、相続税の申告にも期限があり、期限の違う手続きが同時に押し寄せます。
モシュットは、いくつかの質問に答えるだけで、あなたに必要な手続きを期限順のチェックリストにする無料ツールです。銀行・相続関係の手続きも、期限とあわせて一目で確認できます。
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出典・参考
※本記事は一般的な制度・手続きの説明であり、個別の税務・法律相談ではありません。仮払いの上限額・計算方法・必要書類・解除までの期間は執筆時点(2026年)の一般的な情報で、金融機関や個別の状況、制度改正により異なる場合があります。実際の手続きの際は、必ず取引先の金融機関および各公式窓口の公式情報でご確認ください。
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